相続時精算課税制度とは?必要書類や メリット・デメリットを解説!
相続対策としては、「相続トラブル対策」「相続税対策」「納税資金の確保」の3つの視点から対策を検討する必要がありますが、そのうち「相続税対策」の1つの選択肢として「相続時精算課税制度」があります。
この相続時精算課税制度を選択すると、2,500万まで贈与税が非課税になるというメリットがありますが、後に相続が発生した時には相続税がかかることや、いったん相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与を利用できなくなることなど、注意すべき点もあります。
この記事では、相続時精算課税制度とはどのような制度で、どのようなメリットとデメリットがあるのかをご紹介します。
目次
相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子供や孫に生前贈与を行った場合に選択できる課税制度です。
従来、生前贈与を行った場合には、贈与を受けた子供や孫が多額の贈与税を納める必要がありました。しかし、相続時精算課税制度を利用した場合は、贈与時に支払う贈与税が軽減されます。
その後、贈与した方が亡くなった際には、贈与を受けた財産の額を相続財産の額に戻して相続税の金額を計算します。この時、贈与した時に支払った贈与税は差し引いて相続税を納税することとなります。
相続時にすでに支払った贈与税を精算することから、相続時精算課税と呼ばれています。
つまり相続時精算課税制度とは、「相続税の納税を後回しにして、相続財産だけ先渡しする制度」だということになります。
「相続まで待たせずに、今ある財産を使わせてあげたい」という親の思いがある場合や、「親のお金をアテにしたいが、相続までは待てない」という子どもの事情がある場合には、メリットがあるといえるでしょう。
相続時精算課税制度を利用できる人
相続時精算課税制度を利用できるのは以下の条件に当てはまる人です。
■ 贈与者は贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母や祖父母であること
■ 受贈者は贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上の子供や孫であること
■ 受贈者は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に相続時精算課税選択届出書を税務署に提出すること
つまり、相続時精算課税制度を利用できるのは、祖父母や父母から成人した子どもに贈与を行うケースに限られるということになります。
60歳より若い親や祖父母から子どもに贈与することはできません。
利用するメリット
2,500万円まで非課税で贈与ができる
相続時精算課税制度を選択する最大のメリットは、2,500万円の控除があることです。
一般的な贈与税の基礎控除は年間110万円までであり、それを超えると贈与税が発生してしまいますので、一気に多額の財産を贈与する時には、相続時精算課税制度のメリットが大きくなるといえるでしょう。
ただし、「2,500万円」については注意も必要です。
注意点
1人の贈与者(財産を送る人)について、その贈与者に係る相続発生時までの全期間を通して2,500万円が限度です。
したがって、ある年に1,000万円の贈与を行えば、翌年以後は1,500万円の控除しか受けられません。
贈与額の合計が2,500万円を超過した分も一律20%しか課税されない
相続時精算課税制度を使って贈与額の合計が2,500万円を超えた場合は、超えた分に対して一律で20%の贈与税しか課税されません。
普通の贈与である暦年贈与の場合は、2,500万円以上の金額に対しては税率が45〜55%(累進課税)かかってしまいます。
相続時には贈与額の合計が相続財産に加算され、相続税が課税されます。なお、贈与額の合計が2,500万円を超え、贈与税を支払っている場合は相続税から支払った贈与税額を差し引きます。
利用するデメリット
一度でも使うと暦年贈与非課税枠の110万円が使えなくなる
相続時精算課税制度を選択する一番のデメリットは、選択後に暦年贈与に戻せないことです。
相続時精算課税制度を利用した後は、暦年贈与非課税枠の110万円が一生使えなくなってしまいます。
暦年贈与を行った場合は、一定のケースを除き相続税の対象には含まれません。暦年贈与の場合には、毎年110万円の基礎控除の適用を受けることもできます。
そのため、計画的に贈与を行えば、暦年贈与制度の方がトータルの税負担は少なくなります。相続時精算課税制度の2,500万円の枠を全部使い切ってしまったからといって、暦年贈与に戻してもらうことはできませんので注意が必要です。
必ず贈与税の申告が必要になる
相続時精算課税制度には金額の大きさに関係なく、税務署への申告義務があります。
暦年贈与の場合は、基礎控除内の贈与であれば贈与税がかからないだけでなく、申告も不要となります。
相続時精算課税制度を利用する際は、贈与税の申告書や相続時精算課税制度選択届出書を税務署に提出しなくてはなりません。(暦年贈与の場合は基礎控除の110万円以内ならば申告義務はありません。)
相続税の小規模宅地等の特例が利用できなくなる
相続時精算課税制度を利用すると、小規模宅地等の特例が利用できなくなります。小規模宅地等の特例を利用すれば相続税が発生しなかったのに、相続時精算課税制度を利用したために相続税が発生することも考えられます。
相続税の計算を行う際に、自宅の敷地や事業に使っていた宅地等については、その評価額を大幅に減額できる特例があります。この特例を利用することで相続税が発生しない人も多く、相続税の計算を行う際には必ず適用できるか検討すべきものです。
相続時精算課税と暦年課税との比較
|
相続時精算課税制度 |
暦年課税 |
贈与者 |
60歳以上の父母または祖父母 |
誰でもよい |
受贈者 |
贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人又は孫 |
制限なし |
基礎控除 |
2,500万円 |
年110万円(毎年利用可) |
税率 |
非課税枠を超える部分に対して一律20% |
10%~55% |
相続時の |
贈与財産を贈与時の価額で相続財産に合算して相続税を計算し、相続税額から相続時精算課税による贈与税額を控除します。 |
相続開始前3年以内の贈与財産は、贈与時の価額で相続財産として加算します。 |
相続時精算課税制度の手続き
贈与の際に相続時精算課税制度を選択しようとする受贈者は、その選択にかかる贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間にその旨を記載した「届出書」とともに相続税の申告をしなければなりません。
(1)相続時精算課税選択届出書の記入
相続時精算課税選択届出書は、国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
相続時精算課税の届け出の際の添付書類
□ 特定贈与者、受贈者の関係がわかる戸籍謄本類
□ 受贈者の戸籍の附票または住民票の写し
□ 特定贈与者の住民票の写し(氏名、生年月日を示すもの)
□ 特定贈与者の戸籍の附票の写し(贈与した年の1月1日に60歳になっていることを示すもの)
(2)贈与税の申告書の記入
相続税精算課税制度を選択しようとする場合には、贈与税の申告書の第一表と第二表の両方を作成する必要があります。
相続時精算制度を使うべき人
相続財産が基礎控除の範囲内の人
相続する時の財産総額が、相続税の基礎控除額以内に収まる人は、相続時精算課税制度を利用した方が良いでしょう。
生前贈与された分と相続財産をプラスした合計額が相続税の基礎控除額以内なら、将来的に相続税がかかることはないからです。
相続税の基礎控除金額の計算方法は以下の通りです。
相続税の基礎控除 = (3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
すでに110万円以上の贈与をしている人
年間に110万円以上の贈与をしている人は、相続時精算課税制度の利用を検討しましょう。
通常の生前贈与は「暦年贈与」といい、1月1日から12月31日までの1年間にもらった金額の合計が110万円までなら原則として贈与税はかかりません。
しかし、暦年課税は超過累進課税なので、贈与額が多くなるほど納税額も多くなり、最高は55%も課税されます。
そのため、すでに110万円以上の贈与が発生している場合は、相続時精算課税制度を利用することも検討してみましょう。
ただし、一度、相続時精算課税制度を利用すると暦年課税には戻れないので注意が必要です。
値上がりしそうな財産がある人
将来、値上がりしそうな財産がある人は、相続時精算課税制度を選択すると節税ができます。
理由は、相続時精算課税制度を使って贈与した財産は、贈与時の価値で相続時に課税されるからです。
値上がりしそうな財産とは、再開発計画のある土地・値上がりしそうな株式、有名になりそうな画家の絵画などです。
相続で争う可能性がある人
相続では相続人間で争いが起きる可能性もあります。
もし特定の財産を特定の人に引き継がせたいという思いがある場合、その財産を生前贈与しておけば、確実に引き継ぎ、相続争いを避けられます。
ただし、特定の人物に多額の財産を生前贈与した場合、遺産分割協議の際に相続人の間での争いにつながる可能性もあるため注意が必要です。
まとめ
60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子供や孫に生前贈与を行った場合に選択できる課税制度の相続時精算課税制度について解説しました。
相続時精算課税制度のメリットには下記のものがあります。
■ 2,500万円まで非課税で贈与ができる
■ 贈与額の合計が2,500万円を超えた分も一律20%しか課税されない
■ 生前に多くの贈与ができるため相続時の争いを防止できる
上手に節税をしてなるべく多くの財産を継承できるような選択をしていただければと思います。どちらを選択すべきか、お困りの際は税理士へご相談頂くことをお勧めいたします。
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